バリデーションについて毎⽇新聞へ掲載されました

さあこれからだ︓/176 バリデーションを念頭に=鎌⽥實

簡易検索 2020.10.19 東京朝刊 15⾴ 家庭⾯ (全1,758字)
内科外来で、最近感じていることが三つある。⼀つはフレイルという虚弱の⼈が増えだしたこと。新型コロナウイルス感染防⽌のために⾃粛を厳格に守りすぎていることによって、活動量が減り、筋⾁が少し減り、⽴ち上がるときにバランスを崩すことが多くなっている。
⼆つめは認知機能が低下している⼈が⽬⽴っている。このま ま放っておくと、数年後に認知症が⼼配されるような⼈が出だす。⼈と接すること、頭を使うこと、体を使うことが必要である。
三つめはコロナ疲れ。コロナうつという⼈もいるが、実際はうつ病ではない。だけ ど、⼼がかなり疲れてきている。やはり外へ出て、いい空気を吸ったり、たまにはおいしいものを⾷べたりすることが⼤事だ。3密(密閉・密集・密接)をしっかり避け、換気のいいところの⾷事ならば、それほど⼼配なわけではない。
感染予防に注意しながらも、むしろ積極的に体を動かしたり、⼈と関わったりしていかないと、数年後には⼼⾝の機能が⼤きく影響を受けるのではないかと⼼配している。
もう⼀つ気がかりなのは、⾃殺の増加である。7⽉末までは前年 と同程度だったが、8⽉の1カ⽉間に⾃殺した⼈は全国で1854⼈。昨年から約16%増加した。特に若い⼥性の増加が⽬⽴っているという。原因はわからない。でも、コロナによる影響は少なくないだろう。
ぼくは、厚⽣労働省の補助⾦事業である「よりそいホットライ ン」(0120・279・338)の開設
当初から評価委員を務めている。年間約1000万件(対応件数約25万件)。⾃殺や、暮らしの困りごと、性暴⼒、仕事、引きこもり、外国の⽅の相談、被災後の暮らしなど、さまざまな相談に24時間、ワン
ストップで対応しようとしている。
最近は、若い世代から、失業など の問題についての相談が多くなっている。住居確保給付⾦や緊急⼩⼝資⾦などで少し救われた⼈もいるが、期間が決められているため、年末年始にはさらに追い込まれる可能性もあり、⼼配な状況である。何か⼿を打たなければいけないと思う。
政府も、専⾨家も、テレビのコメンテーターも、経済と命の⼆つ をてんびんにかけて考えている。でも、それだけでは⼗分ではない。「命」と「⼼」「経済」の三つのバランスを取ることが⻑期戦の中では必要になると思う。
先⽉、「そ れでも、幸せになれる〜『価値⼤転換時代』の乗りこえ⽅」(清流出版)=写真=を緊急出版した。その中で、バリデーションという認知症ケアの技法について書いた。認知症の⼈を価値ある⼈として接することによって、認知症の⼈の不穏な⾏動が落ち着いてくるといわれている。
⼈を「価値ある⼈」ととらえるのは当然のことなのだが、接し⽅や⾔葉がけの仕 ⽅など、⾏動が伴っていないことが多い。特に、家族など気の置けない⼈にはそうなりがちだ。
しかし、バリデーションの基本である「傾聴する」「共感する」「受 容する」「誘導しない」「ごまかさない」という五つを念頭に置いて、周囲の⼈にも接するようにすると、良好な⼈間関係が築けるように思う。
ぼ くは30代で諏訪中央病院(⻑野県茅野市)の院⻑になった時から、周囲の⼈を「価値ある⼈」として接することを⼼がけてきた。病院で働いてくれている掃除のおばさんから医師まで、あるいは病院に関わってくれているボランティア、もちろん患者さんも、すべて価値ある⼈として接することで、⼈間関係がうまくいき出した。
今、新型コロ ナウイルスによって多くの⼈の⼈⽣が変わってきている。ストレスがたまり、以前なら多少のことは受け流すことができたのに、怒りっぽくなり、⼈を批判することが多くなったという⼈もいるかもしれない。そんな時にこのバリデーションを上⼿に使って、⼈間関係を円滑にしてみるのはどうだろう。
もう⼀つ⼤事なことがある。⾃分⾃⾝も、価値ある⼈と考えることだ。⾃分の⼼の声を傾聴し、それを 受け⽌めながら、⾃分は価値がある⼈間だと肯定的にとらえることが⼤切だと思う。そうした時間を持つことで、コロナ疲れを解消することができるのではないか。
これから秋から暮れにかけて、さらにコロナ疲れが増 す可能性がある。困りごとは⼀⼈で抱え込まず、相⼿も、⾃分⾃⾝も⼤事にしてもらいたい。

(医師・作家、題字も)=次回は12⽉13⽇掲載
毎⽇新聞
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