認知症の人を介護する皆様に
VTI(バリデーショントレーニング協会)からお伝えしたいヒント

 多くの方にとってこれまで経験したことがないような大きな困難に満ちあふれる昨今ですが、このようなときに覚えておくべき大切なことがあります。

センタリング 

  • センタリングは、あなた自身の感情の中心を見つけることで、世の中に蔓延する不安を抱え込まないようにできます。
  • センタリングをすると、お年寄りと通じ合うとき、あなた自身の感情を脇においておくことができます。
  • センタリングをすると、相手に共感することができます。
  • センタリングは3分間のあなた自身のセルフケアにもなります。

VTIのYouTube チャンネルは、誰でも無料でご覧いただける教材です。センタリングの仕方を紹介した動画も3本含まれています。英語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、スウェーデン語、中国語版があります。動画が役立つかもしれないと思える人がいれば、送ってあげてください。あなたの言語の字幕がない場合は、私ビッキー・デクラークにご連絡ください。実用的な方法を紹介した全6本の動画をあなたの言語に翻訳をするよう取り組んでまいります。(日本語訳の動画4本もアップロードされました)

セルフケア

セルフケアは贅沢品ではありません。マズローの欲求段階説のリストに入っていないとはいえ、セルフケアは人間の基本的な欲求なのです。(身体的あるいは心理的に)エネルギーがわいてこないようなとき、しっかりと他の人のお世話をすることはできません。セルフケアとは、あなたにエネルギーを与えてくれるものを見つけることです。お風呂に入ること、30分の読書、好きな音楽を聴くこと、部屋で激しく踊ることですか? 自分自身を充電できる時間を見つけてください。燃え尽き症候群(バーンアウト)の予防になり、また人生により多くの喜びをもたらすことでしょう。バリデーションは、あなたとあなたがお世話をしている人双方に喜びをもたらすということを、忘れないでください。

意味のある関わり

認知症の人と深くやりとりをしたいならば、以下のことを覚えておきましょう。

  • お年寄りは、今起こっていることと同じ思いをした過去の出来事へと時間をさかのぼっていくことがしばしばあります。ですから、お年寄りがパンデミック(世界的流行)や危機的状態について耳にしたり、身の回りに蔓延する不安を感じ取ったりすると、戦争のときの気持ちになっているかもしれません。昔のトラウマがよみがえるのです。
  • このようなつらい気持ちは、押し殺すのではなく、解き放つ必要があります。信頼している人、善し悪しの判断をしたり、それを正そうとしたりしない人に、このような感情を吐き出す必要があるのです。お年寄りはそうした気持ちに寄り添ってくれる誰かをただ必要としています。
  • 深い関わりとは、常に楽しい状態でいることではありません。不幸な気持ち、つらい気持ち、恐怖等(人間の基本的な欲求)を共有することでもあるのです。

VTI(バリデーショントレーニング協会)からお伝えしたいヒントII

土台となる基本は最初の3つ(センタリング、セルフケア、意味ある関わり)です。そして、次のステップは以下の通りです。

語るのではなく探求しよう 

認知症のお年寄りは、私たちの現実ではなく、その人の現実の中にいる場合が多いです。ですから、あなたは目標を「その人(認知症のお年寄り)の世界をもっと理解したい」にしましょう。オープンクエスチョン(開かれた質問)を使って、さらに多くのことを見つけていきましょう。「誰が、いつ、どこで、何を、どのように」ではじまる質問をしてください。しかし、「なぜ」という質問はしないようにします。「なぜ」という質問は、理由を求め、感情の表出というよりは、認知に訴えるものだからです。多くの認知症のお年寄りは感情を表出する必要があります。お年寄りの現実の中で関わっていくことで、あなたはお年寄りを人としてバリデートしているのです。

気晴らしや、うそをつくのではなく、共感しよう

ある人が大きな感情を表出しているとき(怒りや悲しみ、恐怖など)、「そんな風に思わないで」と声をかけても手助けにはなりません。それは、あなたの経験からもわかるでしょう。「怒らないで」と誰かに言われたら、どんな気持ちになるでしょうか?怒りが増すかもしれません。あるいは、直感的にこの人は自分を理解してくれない、あるいは理解しようとしてくれないことがわかり、感情を飲み込んでしまう方がましだと思うかもしれません。 お年寄りにも全く同じことが起きているのです。知性を使う必要はありません。心を使ってください。相手が表現している気持ちになって、気持ちを合わせ、相手と心を通わせましょう。そうすると相手との距離が近くなり、絆が生まれることでしょう。

敬意をもって相手に近づこう

相手と目の高さを合わせましょう。(つまり、お年寄りが座っているときは、膝をついたり体を曲げたりするということです)それから相手とあなたとの距離を意識し、近すぎるか遠すぎるかの手がかりとなる相手のサイン(しぐさ)に気をつけます。あなたが近づきすぎると、(例えば)相手は肩を後ろのほうにひいたり、あるいは腕を組んだりして、後退するでしょう。遠すぎると、相手はあなたに気がついてくれません。 また、まずアイコンタクトをとって(目を合わせ) から、話を始めるのがよいでしょう。

VTI(バリデーショントレーニング協会)からお伝えしたいヒントIII

センタリングを忘れないように

認知機能が低下しているお年寄りは、周りの雰囲気に敏感です。接するときは、自分の思いや気持ちを脇におきましょう。2秒でセンタリングができるようになるまで、センタリングの練習を続けましょう。

バリデーションの原則: つらい悲しみの気持ちは、信頼できる聞き手によって認められ、バリデーションをされることによって癒されます。つらい苦しみの気持ちは、それを無視されたり禁止されたりすると、より強くなります。

この原則はあなたにも、そしてお年寄りにもあてはまるものです。

あなたの気持ちを表現できる人、そのような場を見つけましょう。あなたが脇においていたすべての気持ちや思いを吐き出す必要があります。私たちは不確かな時代に生きています。高齢者ケアの分野で働いている人は、かつてないプレッシャーにさらされています。

バリデーションの原則: 共感をもって聞くことによって、信頼が生まれ、不安が減り、尊厳が回復されます。

「いかがお過ごしですか?」と尋ね、それから耳を澄ませるだけ。それ以外何もしなくてもいい場合もあります。共感をもって聞いているとき、あなたは相手が表現している感情に集中しています。友達の話を聞いているときに、あなたの顔が相手の表情を映し出しているようになり、体を前に傾け、興味をもって相手の話を聞いていることを示しているようなものです。

このような人と人との緊密な触れ合いの瞬間が、喜びとウェルビーイング(満たされた状態)を生み出すのです。
皆様が喜びの瞬間を経験されることを心より願っています。

VTI(バリデーショントレーニング協会)からお伝えしたいヒントIV

マスクや手袋などの保護具をつけていても伝わります

目や手を通して、また相手への近づき方でも共感は表現できます。相手の目の高さに体をかがめ、視線を合わせましょう。相手が見る保護具をつけたあなたの姿はこわいものかもしれないことを意識しておきましょう。それから、声のトーンに注意しましょう。相手がニュートラルな感情(偏りがない)の場合、はぐくむような低い声のトーンを使いましょう。相手が強い感情を表現している場合、言葉の上でもまた非言語的にもそのトーンに合わせるようにします。そのトーンに合わせることが重要です。ただ、これは誠実に行わなければなりません。演技であってはなりません。共感が必要です。共感は、マスクや手袋、保護具を介しても伝わります。

タッチでキス

多くの認知症高齢者は暖かさと慰めを求めています。キスをしてもらいたいのです。最近はそうすることも難しいので、「手でキスをする」ことを覚えてください。手袋をした手であっても、優しく「母親のタッチ」をすると、相手はキスをされたときのような気持ちになります。

音楽を使う

相手が知っている歌や鼻歌を歌うと、信頼関係を築き、コミュニケーションを始める助けとなる場合があります。話すことができない人、話そうとしない人も、昔から知っている歌なら歌うことでしょう。その人にあった歌を見つけて歌いましょう。ナオミ・ファイルとグラディス・ウィルソンさんの動画を思い起こしてください。

VTI(バリデーショントレーニング協会)からお伝えしたいヒントV

呼吸とタッチで不安を軽減

見当識障害のあるお年寄りが不安を(言葉であるいは非言語的に)表現しているとき、あなたは以下のようにして力になれます。

1.呼吸を相手のリズムに合わせる。
2.相手の胸骨(胸の真ん中あたり)に(手袋をした)手をあてる。
3.相手から感じ取った感情を言葉にする。「おびえているように見えます」のように。

孤立がさらなる引きこもりを生む

人間は社会的動物なので、他者と接触することは人間の基本的欲求です。見当識障害のあるお年寄りが孤立状態におかれると、自分の中に引きこもっていくことになるでしょう。このような脆弱な人たちとはあなたが人と人との接触をしていくことが大切です。タッチや歌を使って相手に接触し、コミュニケーションを促していきましょう。

それから今一度センタリングを忘れずに

バリデーションをする3分~5分間、あなたの思いや感情を脇においておくことは極めて重要です。そうしなければ、あなたの感情を相手に投影してしまうことになりかねません。ですから、あなたに一番あったセンタリングの方法を選びましょう。深呼吸を3回し、強い根がしっかりと張った、たくさんの枝とそれに葉が茂る木を想像する方法。あるいは、暖かい太陽と海辺、素足の下には金色の砂の方法。効果のあるものであればどれでも大丈夫です。VTIのYouTubeチャンネルでは、無料で3つのセンタリングの方法を紹介していますので、試してみてください。

ビッキー

 

 外部リンク
VTI(バリデーショントレーニング協会)